ハテナマンの庭
いつもと同じでも違っても、昨日と明日で新しい年が明け、
スーハー呼吸をしているうちに今月も終わりに近づく。
最近、仕事のペースが以前と違う。
セカセカと時間に追われていたはずの現場が、いつもより早く片付いてしまう。
木の数が去年より減ったわけでもないのに、ラクに感じる。
そーかー。トミの動きが違うのだ。
親方と私の動きが少しずつシルバー色になりつつあるが、
それを上回るスピードで若者は進歩しているのだ。
3人の合計は、数字にすると多分、−10×2+50ってところかな。
言葉にすれば、少し情けない二人とまあまあ頼もしい一人。
でも、思えば、トミがこの仕事を始めてから5年が過ぎようとしているのだ。
スローでマイペースだから、他の植木屋さんへ行っていたら落第点かもしれない。
でも、大勢の職人に囲まれた親方の修行時代と比べて、
今の状況でここまで来れた事に、ギリギリの合格点を出すことにしよう。
そんな甘い採点は親方と私の胸のうちにしまって、本人には言わないが。
仕事中、「親方と弟子」よりも「父と息子」の感情が先に出ると、
言葉が時に荒くなり、時に甘くなり、大事な事から外れてしまう。
私はそんな時、まあまあまあ、とか、はいはいはい、とか、
三拍子の言葉で中に入って行くが、
「親方と弟子」の会話の時は、見て見ぬフリでへへっとお腹の中で笑う。
まだまだ負けられない、いつか追いつくぞ、と、
互いの意地がぶつかり合って、上手くいっているのだな。
ボサボサガタガタ | スッキリピカピカ |
今年の仕事始めは、手入れと伐採と竹垣のリフォーム。
ボサボサでガタガタの状態でお正月を迎えたのかと思うと、申し訳ない思い。
それでも気持ちよく仕事させていただき、ほっとする。
しかしその後のある現場で、いやな事が起きた。
別荘を借家として貸している、横浜在住の大家さんからの依頼なのだが、
その借主がハテナマンの困ったちゃんなのだ。
5年ほど住んでいるのだが、年齢職業不詳のおじいさん。
宗教の説法のようなテープを一日中大音量で流した年もあり、
お茶を出してはゴキゲンに延々と喋りまくった年もあり、
「去年の仕事はひどかった!」と怒鳴り始めたり・・・。
いつも「気にしないで仕事してくださいね」と、大家さんから言われてはいるが、
今年も重ーーい気分で出かけたのだが・・・・・!!
1日目は雨戸を閉め切ったまま一歩も外へ出てこなかった。
2日目、濡れ縁の近くで掃除をしていたら、いきなり窓が開き、
カン高い声で「アンタ誰だっ?」と、ギョロギョロした目で睨んで言った。
「大家さんに頼まれた、植木屋の石田です。」と言うと、
「オレは頼んだ覚えはないっ。帰ってくれっ。」と怒鳴られた。
そしてハテナマンは大家さんに電話をかけ、
「あいつらは評判が悪くて仕事がなくなって困っているんですよ。」と大声で喋りはじめたのだ。
「なんだとぉーっ」か「なんですってぇー」か「コンニャロメー」か「ザケンナヨー」か忘れたけど、
私は何かを叫びながら、腰の鋏に手をかけ、
ヒラヒラカーテンが揺れる窓から乗り込む体制になったのだ。
しかし、トミの「相手にするな、バカバカしい」のひと言で、
ハッと我に帰り、「極道の妻」が「バカボンのママ」に戻った。
冷静な若者よ、ありがとう。
「あいつらは悪魔なんです、悪魔が来たんです。」などと喋り捲った後、静かになった。
ソレきりハテナマンは家から出てくる事はなく、
夕方まで、静かな庭に庭師の動く音だけが響いたのだった。
庭は美しくなり・・・ | サイナラ〜 |