日々のこと/2004.1


ハテナマンの庭

いつもと同じでも違っても、昨日と明日で新しい年が明け、
スーハー呼吸をしているうちに今月も終わりに近づく。

最近、仕事のペースが以前と違う。
セカセカと時間に追われていたはずの現場が、いつもより早く片付いてしまう。
木の数が去年より減ったわけでもないのに、ラクに感じる。
そーかー。トミの動きが違うのだ。
親方と私の動きが少しずつシルバー色になりつつあるが、
それを上回るスピードで若者は進歩しているのだ。
3人の合計は、数字にすると多分、−10×2+50ってところかな。
言葉にすれば、少し情けない二人とまあまあ頼もしい一人。
でも、思えば、トミがこの仕事を始めてから5年が過ぎようとしているのだ。
スローでマイペースだから、他の植木屋さんへ行っていたら落第点かもしれない。
でも、大勢の職人に囲まれた親方の修行時代と比べて、
今の状況でここまで来れた事に、ギリギリの合格点を出すことにしよう。
そんな甘い採点は親方と私の胸のうちにしまって、本人には言わないが。

仕事中、「親方と弟子」よりも「父と息子」の感情が先に出ると、
言葉が時に荒くなり、時に甘くなり、大事な事から外れてしまう。
私はそんな時、まあまあまあ、とか、はいはいはい、とか、
三拍子の言葉で中に入って行くが、
「親方と弟子」の会話の時は、見て見ぬフリでへへっとお腹の中で笑う。

まだまだ負けられない、いつか追いつくぞ、と、
互いの意地がぶつかり合って、上手くいっているのだな。

ボサボサガタガタ スッキリピカピカ

今年の仕事始めは、手入れと伐採と竹垣のリフォーム。
ボサボサでガタガタの状態でお正月を迎えたのかと思うと、申し訳ない思い。
それでも気持ちよく仕事させていただき、ほっとする。

しかしその後のある現場で、いやな事が起きた。

別荘を借家として貸している、横浜在住の大家さんからの依頼なのだが、
その借主がハテナマンの困ったちゃんなのだ。
5年ほど住んでいるのだが、年齢職業不詳のおじいさん。
宗教の説法のようなテープを一日中大音量で流した年もあり、
お茶を出してはゴキゲンに延々と喋りまくった年もあり、
「去年の仕事はひどかった!」と怒鳴り始めたり・・・。
いつも「気にしないで仕事してくださいね」と、大家さんから言われてはいるが、
今年も重ーーい気分で出かけたのだが・・・・・!!
1日目は雨戸を閉め切ったまま一歩も外へ出てこなかった。
2日目、濡れ縁の近くで掃除をしていたら、いきなり窓が開き、
カン高い声で「アンタ誰だっ?」と、ギョロギョロした目で睨んで言った。
「大家さんに頼まれた、植木屋の石田です。」と言うと、
「オレは頼んだ覚えはないっ。帰ってくれっ。」と怒鳴られた。
そしてハテナマンは大家さんに電話をかけ、
「あいつらは評判が悪くて仕事がなくなって困っているんですよ。」と大声で喋りはじめたのだ。
「なんだとぉーっ」か「なんですってぇー」か「コンニャロメー」か「ザケンナヨー」か忘れたけど、
私は何かを叫びながら、腰の鋏に手をかけ、
ヒラヒラカーテンが揺れる窓から乗り込む体制になったのだ。
しかし、トミの「相手にするな、バカバカしい」のひと言で、
ハッと我に帰り、「極道の妻」が「バカボンのママ」に戻った。
冷静な若者よ、ありがとう。
「あいつらは悪魔なんです、悪魔が来たんです。」などと喋り捲った後、静かになった。
ソレきりハテナマンは家から出てくる事はなく、
夕方まで、静かな庭に庭師の動く音だけが響いたのだった。

庭は美しくなり・・・ サイナラ〜