日々のこと/2004.9.7


庭の完成

お盆休みの4日間、スカートをはいて過ごした。
コシやヒザコゾウやアシクビが、風を感じてスースカと笑った。
いつも、カーゴパンツの裾を長めの軍足にキュッとしまい、その上から地下足袋を履き、
腰はカーゴパンツに通したベルトと、腰道具のベルトで固定され、
時には釘袋やインパクトのケースをぶら下げるベルトも巻き、
体ごと道具になっているようなものだ。
たまには、解放してあげなくちゃ。
20年以上ずっとお気に入りの、木綿の花柄のスカートは、
洗い立てのパリッとした感触と、花の色合いが、大好きだ。
今年買った一枚は、薄いベージュに青や赤や緑の刺繍でドット模様が散っていて、
これから先もずっと、お気に入りになるのだ。
飽きないものはいい。
できれば、自分を取り巻くモノは、ずっと何十年も飽きないモノがいい。
服も、道具も、景色も、庭も・・。


伊東駅の裏手に海も山も町並みも、ぐるりと見渡す高台の分譲地がある。
景観を確保するように、段々になった二区画を求め、
上の段に建物を、下の段に庭を造る工事があり、縁あって庭の施工の依頼を頂いた。
建物の周囲と、プラスまるまる一区画が庭になるのだ。
小学生の二人のお子様を持つ、お若いご夫婦と、
まだ建築中で足場が取れない現場で、6月の半ばに打ち合わせをした。
ご希望は、既存のカイヅカ生垣の撤去と新しい生垣、芝生、伊豆らしい植栽、家庭菜園、等々・・・。

建物のデザインを壊さないように、控えめでシンプルながらも、ダイナミックに、
そして個性的ながら、見渡す景色に似合った飽きない庭にしようと思った。
2階のリビングから続くテラス、そこから直線の外階段で庭へ降りる時の視界と、
坂道を上がって来て、建物を見た時の視界、
その2つのポイントを中心に、プランを練った。
また、視界やデザインも大事だが、安全性と快適性にも考慮した。

既存の生垣を撤去し、トキワマンサク赤葉の生垣でぐるりと敷地を囲う。
機会があったら是非生垣に植えたかった種類だ。
渋い葉の色が変化して、1年を通して楽しめ、樹形もフンワリしていて綺麗だ。
花も綺麗な色だが、葉の特徴に惹かれる。
階段の上から広い芝生の緑を見渡す時の南側に、3つの円を置く。
3つの円はほぼ真南に向かって正三角形状に並べ、発展的なイメージにした。
私自身は、家相や風水の事は何も知らず、気にもしないが、
南の空には、なぜか、希望を感じる。
未来に向かって溢れ出る力、挑戦するエネルギー、達成する自信・・・。
南に背を向けてはいけないような、気がするのだ。
実は、なんと、奥様は20年程前の陸上アジア大会での、七種競技の金メダリスト!
今は、歯科医師のご主人様とお子様達、ご家族揃ってテニスを楽しまれているが、
きっとテニスコートでもアスリートの血がフツフツと沸いているのだろう。
ご家族皆で、どこまでも挑戦してほしいと願いながら、南を指した円を描く。
(トキワテニスクラブのHPはこちら
植栽は出来る限り数を抑え、芝生の広さをキープしよう。
柑橘類は少し、植えたい。
カナリーヤシとソテツは、思い切って大きなものがいい。
広い敷地を生かして、似合うものを探そう。
建物の周りは雑草に悩まされないようにしよう。

出来上がった原案を見ていただくと、わずかな変更でOKのお返事を頂いた。
信頼して任せて下さる事が有難く、感謝の気持ちが溢れると同時に、
責任もって良い庭にしようと、いつにも増して気合を入れて工事にかかったのだった。

今回、作業中の写真を撮る間合いもあまりなく、施工に集中した。
集中力が途切れると土と汗で汚れた体に気付いた。
スカートで過ごしたお盆休みをはさんだが、
スイッチはスムーズにオンし、完成に至った。

途中、何度も頷き、思った事は、
素材に触れて、その重さや性質を体で知ってこそ、
素材を生かすデザインをスタートできるのだと、
改めて、感じ、そこから己の自信を育てようという事だ。
そして、地面は、第一段階で出会う素材だ。
ジョレンやレーキや地下足袋の底で、地面の平らと凸凹を感じてこそ、
紙の上に線を引く事が出来るのかもしれない。
私は、そうありたい。

時遊空間・小川様、ウェルホーム・佐藤社長様、奥様、山本様、大変お世話になりました。
ありがとうございました。今後とも宜しくお願いいたします。

A→
↑子供部屋の前は、土系舗装。防草効果があり、透水性が良く、照り返しがない。
のり面の際にはフェンスの続きに低いキンメツゲを列植し、硬さを抑えた。
家庭菜園は大きく取り、作業のしやすさとデザインを兼ねて中をランダムに区切った。

B→ ←↑
玄関横のヒメシャラはこんもりした株立ち。
落葉後の樹形も綺麗だろう。
計器の目隠しにソヨゴとシマトネリコを植栽。
裏手は防草シートを張り砂利を敷いた。
ステップの両側にはビヨウヤナギとハクチョウゲ。
ふんわりとした雰囲気に。
手前には小振りのゲッケイジュ。
香りを楽しむ。

C→
道路側からの様子。
3本のソテツがクネクネダンスをしている。
樹木そのものが素材の段階でデザインされていれば、
位置と向きを樹木に聞く。
これこそが、庭師の仕事だ。

庭への入り口である門扉が目立たないように、
生垣をずらし、トリックした。
D→
階段両側のノリ面は既存の石積みを撤去し、
左はABロック積みと芝生で、
右は芝生の中にソテツを植栽し、修復。
E→
下から建物を正面に見る。
スッキリとした空間に建物が映える。
曲線と直線がそれぞれ綺麗に絡む。
F→ ←↑
・建物側から下の段を見る。
・低めのキンメツゲで視界をキープ。
・海をバックにカナリーヤシが雰囲気を出す。
・真南に向かって並ぶ3つの円が発展的・・。



(補足 )周囲の生垣はノリ面の低い位置に造り、
平らな部分を広く確保した。
工事のスタートは、レベルをとり地盤を決める事だったが、
この工程に予想以上の時間を費やした。
その甲斐あって、なだらかな斜面が出来た。 











←(裏手の階段補修)

おまけ

カナリーヤシは4.5tの重量だった。根は繊維質で切りにくい。ラフターとクレーン車を使って引越し作業も大掛かり。

ソヨゴ


シマトネリコの葉


レモンの実


ハッサクの実

トキワマンサクの葉






←協力:上原電気