3月?日/竹垣準備
「塩ビの竹垣なんて、植木屋さんの仕事がなくなってしまうよ。」
と、お客様の口からなんともありがたい言葉を戴く。
成人式にじいちゃんから戴いた言葉の次に有り難く胸にしみた。
このお客様とは随分長いお付き合いをしていただいている。
ひっそりと落ち着いた日本庭園を持つ別荘。
約45mほどの鉄砲垣をやり替え、光悦垣を金閣寺垣に替え、
何本か庭木を植え替えることになり、
ありがたい言葉の通り、久しぶりに天然竹での工事となった。
横浜のご自宅も池のある日本庭園という、大の日本庭園好きだから、
「ほんもの」をよく知っていらっしゃる。
竹垣工こそ植木職人の腕のみせどころだ。
以前はどこの竹垣も何年か毎に、取り替えるのが当たり前だった。
でも最近はほとんど塩ビの人工竹、エバーバンブーが主流で、
半永久的に腐らないし、ずっと同じ色のまま、つるつるしている。
シュロ縄で縛れないから、ドリルで穴をあけてつないで行く。
パネル式のはほとんど「組み立て作業」だ。
基礎を打ったり、他の技術も必要だけど、
植木職人でなくてもスニーカーはいててもピアスしてても仕上がってしまう。
色の変化のない「にせもの」で、職人のタマシイが入っていない。
タマシイより耐久力だ。いや、タマシイだ。どうでもいいか。好みのモンダイ。
さて、竹だ。
6寸竹がざっと140本、4寸竹が70本ほど必要だ。
この頃あまり良い竹に出会わない。
そーだ。以前、「HP見ました」というメールを竹屋さんからもらったっけ。
メールの記録を探し出し、タウンページで電話番号を探し、かけてみた。
富士宮の「芹澤竹材店」さんだ。
伊東まで運んでくれるというので早速注文。
無理を言って3日後に届けてもらった。ごくろうさまでした。
シヤッキーンとまっすぐに伸びた良い竹に親方も満足げ。
秘密基地にて、作業開始。
6寸竹から立子の寸法に切り出していく。
鉄砲垣は隙間なく竹を立てていくので立子の数が多い。
今回は700本以上ある。
4寸竹は胴縁の寸法に切る。
いつも腰にぶら下げているノコより薄い刃の「竹きり鋸」を使う。
3人でほぼ一日かかって切った。
次に切った竹をみがく。
「もみがら」を水に入れ、手でワッシと掴み、
それをタワシ代わりにみがくのがホントのやり方だが、
スチールタワシと水でみがいた。
「もみがら」の方がつやが出るかもしれない。
フシのところはとくに汚いからよくみがく。
竹が太いから結構力のいる作業だ。
700本をみがき、タオルで拭き、一抱えずつの束に縛る。
これも一日かかる。
ピカーンときれいな材料が揃い、準備OK。
ところで、作業中、至近距離に瑠璃色の「幸せの青い鳥」がやってきたが、
名前がわからないから、「おい。」と、呼んだ。
すると、うさぎ跳びでさらに近くに来た。
かなり美人で、お腹はオレンジ色だった。
いつのまにか飛んで行ったけど、
「幸せ」を置いてってたかなあ。
☆つづく☆
3月?日/竹垣工
広い現場や大掛かりな工事は別として、
大抵の作業は3人という数字がやり易いなあ、と思う。
リズムも三拍子、ズンタッタ、ズンタッタ、と軽やか。
うちは無駄のない、効率の良い、ベストな人数だ。
う〜ん、これって、本末転倒?
今回の竹垣工もちょうどいい感じだった。
「あと一人ほしい」でもなく「一人余分」でもない。
まず、親柱の丸太を据えるための穴掘りからスタート。
スコップで少し掘り、長い柄のついた「ハサミ式スコップ風アナ掘り器」で深く掘る。
(複式ショベル)↑
丸太を入れ、水平器を当てて、突き棒でよく突いてしっかり据える。
同様に間柱を据えハンマーでたたき、胴縁(どうぶち)の長い竹を親柱と間柱に打つ。
今回は2本ずつ、3段の胴縁にする。
竹にドリルで穴を空けて釘を打ち付けるのだって、上手くなったなあ。へへっ。
ピッシャリ垂直の柱とピッシャリ水平の胴縁が出来上がった。
さて、立子(たてこ)の取り付け。700本の竹が束になって待ち構えている。
鉄砲垣は縦に並べた立子の間にシュロ縄を通して一本ずつ胴縁に止めていく。
ガリバーがボタンを付ける時に使うような鉄のハリや、
クジラを釣る時の釣り針のような曲がったハリ(クリバリ)を使い、
手前と向こうに人が別れて立ち、「ほらよ」「はいよ」と、
縛っていくのがやり易いけど、
竹垣の位置が隣地との境界ギリギリのところで、
また、お隣さんのフェンスもギリギリに設置してあり、
立子を並べながら、縄をからませ、縛っていくしかできなかった。
初めのうちはリズムがつかめない。
竹を立てて押さえる人、3段目を縛る人、2段目を縛る人、に分かれて、
「ゴツッ」「いてぇ」「なんだよ」「このぉ」「ほれ早く」と、
狭いところで3人が重なり合って、目をつり上げて大騒ぎだ。
合間に花粉症の私とトミの「ヘークション」が入る。
お留守の別荘でよかったあ。施主さんがいたら口にガムテープを貼らなくちゃ。
竹を選び、立てるのは親方。
節止めにして、ほぼ同じ長さに切り揃えてあるものの、
太さや節の具合、逆(サカ)を使う所、打ち込めるか否か、等の判断、
これらの職人のカンは、今現在、親方だけが持っている。
何mか進むと、徐々にリズムが合ってきて、「ヘークション」だけになった。
キュッキュッと縄の締まる気持ちの良い音が聞こえる。
縄の黒い模様が次々に出来上がり、編み物か刺繍をしているみたい。
キリの良い所まで行くと、水糸の張った線に合わせて、立子を地面に打ち込み、
上の段を銅線18番で縛っていき、その上をしゅろ縄で絞めながら仕上げていく。
途中、手のあいた者は、足りないしゅろ縄を玉に作って水に入れたり、
竹の長さを確認したり、切りなおしたり、無駄なく動く。
こうして3段の胴縁にしっかり縛られた竹はビクとも動かない。
そして、ネイルアーティストが見たらコシを抜かすような真っ黒の手になる。
あとはリズムよろしく玄関横の袖垣と金閣寺垣を完成させる。
竹の準備、撤去、設置まで3人でおよそ10日間かかった。
迅速、丁寧、無駄のない人件費、のちょうど良いバランスではありませんか!
・・と、一応納得。
途中、竹が足りなくなり(単純な計算ミス(^_^;))近場で調達したけど、
富士宮の芹澤さんちから届けてもらった竹とは、大違いだった。
値段は安いが、モノが悪い。
値段と品質のバランスが悪いってこと。
安ければ買うという近頃の世の中、デフレにおちて慌てる前に、
皆で良いものを求めましょうよ。ってね。
さあ、あとは植栽。また3人で無駄なく動きましょ。
(竹垣の写真はこちら)