日々のこと/10月



10月?日/ヒノキの再出発

あまり広くはない庭に高さ5m程のヒノキが二本並ぶ。
分譲地ができる以前から、存在していたらしい。
南側の二階の窓をも暗くし、庭全体を狭く暗く感じさせる。

「伐採してください。」
「了解。」話は即決。

当日の朝、「やはり、一本は残したい。二本とも切るのは気がひける。」
「了解。」変更も即決。

切られてしまう運命となったヒノキの根元に、
「お酒」と「お塩」を振りまく。
お腹の中で、「あーめん」と「なむあみだぶつ」を唱える。
もっと、いろいろ語り掛けたいけど、とりあえず我慢する。
残してもらえることになった一本の上の方の枝にロープを掛ける。
切る方にニ連梯子をかけ、親方がすすっと、登る。
高木の処理は、私は首がくたびれる。
いつも下で安全祈願の係りだからだ。
梯子を木に縛り付け、ひとまず一つ目の安全を確保。
「てっぺん」の幹にさっき掛けたロープの片方を寄せて縛り、
もう片方を下でTomiが手に持つ。
「こがる君」という小型のチェーンソーの歯がウィーーンと入る。
「ひけ」の合図でロープを持つ手に力を入れる。
ミキミキ(幹だから)と傾いて、ロープにぶら下がり状態になり、
少しずつ下へ降ろす。
初めて地面に降りたきた「てっぺん」は、まだ、息をしているかしら。
と、考えながら、ロープをはずし、「OK」の合図でロープは上へ。
何回か繰り返し、親方の位置も安全圏に入り、私の安全祈願の仕事は終了。ほっ。
やがて地面とすれすれの切り株だけが残った。
もう一本は剪定をして、形を整え、かっこよくなった。
上をみればさっきよりずっと空が広い。
切られたヒノキには気の毒だが、スッキリした空間になった。
周りの庭木を手入れし、たまった落ち葉や雑草をとり、
風がすーーっと通る清潔な庭になった。

何本か切り分けられた幹を見て、
「玄関に置きたい。」ということになった。
スツールにちょうど良い太さだった。
安定の良さそうな2本を選び、チェーンソーで高さを調整した。
切られたヒノキがまた、この家で過ごせることになって、
なんだか、とても嬉しかった。
「こんな姿になっちまって・・。」と、本人は納得いかないかもしれないが、
邪魔にされながら眺められるより、形を変えて役に立って良かったじゃないの。
独特の気分の良い香りを嗅ぎながら、ヒノキスツールを玄関へ運んだ。
出来れば残った一本から見える所に置いてあげたいなぁ。と、思った。


10月?日/カイヅカイブキの機嫌

脚立に登り、カイヅカの生け垣のてっぺんから、
ぴょこと、頭を出したら、
電柱の工事をしている高所作業車のお兄さんと、
同じ目線で、ちょっと、びっくり。
お腹の中で「やあ。」と、言う。
砥いだばかりの刈り込みバサミは、
ショキショキと、気持ちが良い。
片足を脚立の上で、もう片足を木の枝にのせ、
バランスも上手くなったなあ、と、自分を誉める。
切った切り口から、いい匂いがしてくる。
てっぺん(てんば)を刈ると、そのいい匂いが、
全部、空へ吸い込まれて行く。
吸い込まれてしまう前の匂いを一人占めする。

こんもり、ふっくらした形に仕上がったカイヅカが好きだ。
生け垣だったら、少し離れて見てみると、
もこもこ、もこもこ、という形。
和風でも、洋風でも、似合うと思う。
時々、ブロック塀のように角張って仕立てたのをみるが、
あれは、カイヅカ本人も、不本意に違いない。

このカイヅカ君、時にとげのような攻撃的な枝を出す。
あの、ブロック塀のように刈られたものに、
多く出るような気がする。
気に入らなくて、反抗しているんじゃないかなぁ。
親方いわく、「強く刈り込まれていじめられると、出る。」と。
ふ〜ん。そーかー。
そう、飛び出たツンツンした若い枝先だけを優しく切るのです。
なりたい樹形にしてもらえないと、とげを出すのです。
と、私は、非常に納得したのであります。
そういえば、私もなりたい形にしてもらっていないな。
が、とげは出さない。涙を出す。
ちなみに、カイヅカイブキは、ヒノキ科ではございますが、
イブキ(ビャクシン)の改良品なのでございます。

脚立を下りながら、中にたまっている古葉を丁寧に落とす。
一年で茶色の古葉がかなりたまる。
中に風がすーっと入って、緑もいっそう鮮やかに見える。
「どうだい?気に入った?」